2023.01.17 UPDATE
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フクモリ シン

「障害者施設の高齢化について考える」

急速な速さで訪れた高齢化の問題は、現在の日本における社会問題でもある。2025年のピークを迎えるまで高齢者人口は増加し続けるという予測である。2015年には総人口に占める割合(高齢化率)も26.8%になった。このような急速な高齢化による超高齢社会の到来は、労働力の低下や高齢者の定義の見直しや、要介護者や認知症の増加ということを含んでいる。当然、社会保障は超高齢化に起こるそれらの課題に追いつかなければならないが、将来の国民生活においては財政的にも人的にも不安を抱えているのが現状である。このことは知的障害者入所施設やグループホームにおいても例外ではない。2020年の統計では、全国の障害者支援施設の利用者のほぼ3人に1人が60歳を超えているという。知的障害者の高齢化の問題は今に始まった問題ではない。

しょうぶ学園も今年で設立50年を迎える。1973年に精神薄弱者更生施設(入所定員50名)として開設した。現在、24時間ケアの対象者が入所者40名、グループホーム利用者54名を合わせて94名と、多くの方がここで暮らしている。60歳以上の利用者は38.5%で、平均年齢は58歳、最高年齢88歳である。当時20歳で入所した方は70歳になった。運動会は軽いレクリエーションやカラオケに変わり、運動場は心地よい散歩道になって、ある意味ゆったりと時間が流れている。一方、車椅子の方も増えグループホームにはエレベーターが必須になり、作業場への移動も介助が必要な方が増えてきた。高齢化に逆らうことなくそれなりに支援体制は変化してきたが、今、新しい重要な岐路に立っている。正に、高齢介護や生きがいに特化したシステムを導入した施設機能のギアチェンジが必要な時である。制度的な高齢介護に関する体制については、施設を出て介護保険に移行するという建前の中で処理されがちであるが、制度的性質の違いから障害者支援施設は介護保険との接点が曖昧である。高齢知的障害者の支援の質、量ともに不足しているこれらの喫緊の課題について、現実的に迫った問題として現状を分析し、法人として早急にこれからの障害者施設の方向性と役割を示していかなければならないと考えている。入所またはグループホームで生活をしている知的障害者はどのように高齢期を過ごしていくのか。

知的障害者施設の職員に中心的に求められたものは、利用者に寄り添い、作業活動や余暇支援など、より活力ある自立した生活への支援ができるようにすることである。もちろん障害に伴う介護や看護面についてもその範疇ではあったが、施設から地域へ移行できずに年齢を重ね歳と共に身体機能が低下するのは避けられない。当然施設入所者の年齢は高齢化の一方である。また、一般的に知的障害者の機能低下のスピードは健常者に比べて10歳から20歳も早く、現状では障害に加えて身体的機能低下による医療的ケアや介護に重きを置く支援体制を取る必要に迫られているのが多くの障害者施設の現状であるにもかかわらず、医療と福祉の連携については、今更ながらであるが必要不可欠な制度的確立ができていないのである。
高齢者介護施設と違って生活施設として設立された知的障害者の入所施設は、介護保険適用除外施設であるため、障害者制度の中には高齢の知的障害者を想定した環境および人的な介護職員の基準がなく、介護に適した設計や、また職員の配置体制などのほか、そもそもその目的の違いなどが課題となる。施設の努力義務としても、障害者施設の支援員の知識の向上や技術の底上げには限界があり、障害者施設の高齢化に応じた看護師及び介護職員の配置基準を検討する必要性を強く感じている。現在の配置基準では、障害者施設の生活介護施設に看護師1名以上で、グループホームや入所施設には看護師や介護専門職員配置の義務がないのが現状である。また、独自で協力医療機関の確保も難しい中、24時間対応できる医師や看護師との密接な連携も欠かせない条件に挙げられる。制度的にも障害者の高齢化対策に対応しているとは到底言い難いのである。

このようなことから今後の障害者施設の高齢化問題については、介護保険制度との連携を積極的に考えていかなければならないのは言うまでもない。また、同時に障害福祉機関と介護保険機関とのマネジメントネットワークは急務である。制度的に言えば、現行では障害の有無にかかわらず、65 歳以上の介護サービスは介護保険で対応することになっているが、住み慣れた施設から支援体制の違う施設サービスへの移行は、本人や家族にとっても精神的には簡単ではない。また、介護保険認定を受け介護保険サービスを受けたとしても障害福祉サービス(生活介護)に比べてサービス支給量は絶対的に不足している場合がほとんどであり、実際には積極的に知的障害者の方を受け入れる余地があるとは言えない状況である。介護を必要とする65歳以上の知的障害者が介護給付を受けられず、やむを得ず就労支援を基本とする訓練等給付(就労継続支援B型)にて働いている高齢知的障害者の現状をどう考えるのか。

障害者施設での高齢化問題は、共同生活における新たな大きな問題も発生する。それは施設の中で介護や安静を中心とした静的な活動を必要とする人と、若く様々な活発なプログラムを基に動的な活動や経験等が必要な方や激しいパニックや多動傾向の方とを同じ施設で支援や介護に取り組むことの難しさである。本来の支援の目的であった地域生活移行や就労支援を推進しながら、介護や終末期のケアの問題も同時に取り組まなければならない現状は、総体的に言えば障害者施設の役割の幅が広がりすぎた感が強い。大きな問題は、職員自身の負担や思いと向き合いながらも知的障害者と高齢者の両面において対応できるスキルとマンパワーの確保は直面する課題であるとともに、終末期の近い高齢知的障害者に安心して暮らしてもらうためのハード面の整備(高齢棟)も視野に入れて考えなければならない。入所またはグループホームで生活している高齢知的障害者にとって安心した老後の福祉サービスを保障していくために、ケアする側の体制の再構築が求められているのである。

しかし、いつの時代になっても本質は変わらない。最も基本にあるべき大切なことは、支援者の援助観の成熟度を高めることである。障害者と支援者は、偶然にも同じ時代と時間を共有する同志として、お互いのために時間を使い、影響し合いながら、良き人生を分かち合っていく覚悟が必要である。自分のことをうまく語れず、自分の将来についてうまく生活設計を描けない人が自分の老いとどう向き合っていくのか、その手助けすることは難しいけれど、良い仕事だと思う。
障害者支援施設の役割はどうあるべきなのか。職員と共に考える一年である。