TALK SPOT 92
「改善築」
フクモリシン
フクモリ シン
「改善築」
いつもの学園は、イベントや来客、研修など施設活動は多岐にわたり、大小のプロジェクトの立案や実施に向けてのコミュニケーションも刺激になり、活発にそれぞれの役割目標に向かって日々が過ぎていく。ある意味、毎日が流れるように創造的で全体に活気が感じられ、それは法人の大きなコンセプトでもある。しかし、コロナウイルスの渦中、様々なイベントや活動が中止や延期になり、流れが止まった日々を体験することによって、毎日のルーティン業務の中で立ち止まって、逆に利用者の日常の暮らしについて考えることが多くなった気がする。
浅野房世は、ケアについて次のように述べている。
『社会の中で実施されている多種多様なケアは、人間が生きる上で不都合を改善するために存在している。ニーズがあるから新しいケアも創出される、しかし、社会の中で見えていないニーズを新しいケアとして生み出すためには、想像力を豊かにし、幼子から高齢者まで年齢にかかわらず “生きる不都合とは何か?” すなわち “人間の尊厳とは何か?” を多面的にとらえることが必要である。』(ケアとは何だろうか-広井良典[編著] /ミネルヴァ書房)利用者ひとりひとりがここで暮らしているという視点から、日々のあり方はこれでいいのかと、「ケアとやさしさ」について見つめ直す機会となっている。ここしょうぶ学園は、本人にとって不都合の少ない「ありのままがあるところ」なのだろうか。
学園の24時間を様々な角度から振り返り、話し合い、少しでも利用者も働く人も自分らしく本来の個性を発揮できる環境について徹底的に考えることを提言したい。職員が人への尊厳性を高め、自分も成長するために「変わるべきこと」を具現化し、施設全体の空気感がより柔らかくなること、豊かになることが今回の提言の最大の目的である。福祉施設経営の大切なことは、新しい施設づくりやハード面の整備は言うまでもないが、やはり人の精神性を高めること。つまり、利用者も働く人も物質主義ではなく内側の精神が穏やかで満たされた状態の循環を目指すことである。目に見えないやさしい精神の交流が心の支えになる。そして仕事の支えになる。
テーマは以下の二つである。
1.「利用者の自己決定と尊厳について〜ケアとやさしさを考える」
2.「働く人のコミュニケーションとチームワークについて」
創立以来48年、先代の基礎の上に土台を作り構築してきたものに精神的にも手入れをしなければならない。システムが経年劣化したり、使う人が変わって環境の不自然さや使いにくいところは「改善築」しなければならない。みんなで話し合いながら図面を修正し、これからの新しい方向性を創っていくことがここに求められている。当事者である利用者と働く人のことを考えた、その未完成な数字の入っていない図面を元に、より人間的で精神性の高い、やさしい学園づくりに取り組みたいと考えている。まず、自分自身がやさしい人間について考えることから始めたい。
これは私にとっては難題である。
季刊誌98号『TALK SPOT』ページより掲載(季刊誌購読方法はこちらへ)
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