2021.04.30 UP DATE
人(ヒト)32

船越 哲朗 (西部ガス絆結株式会社 代表)
福森 伸 (しょうぶ学園統括施設長)

福岡県の2020年度県民講座(第6回)として、オンライン講演「ありのままがあるところ」が開催されました。

前半は福森伸による講演、後半は西部ガス絆結(ばんゆう)株式会社の代表・船越哲朗氏と福森、司会に福岡県人権啓発情報センターの末継浩久氏を交えての対談が行われました。

障がいがある人が自分らしく働ける企業を立ち上げた船越氏とのお話から、その一部をお届けします。

左:福森伸 中央:船越哲朗氏 右:末継浩久氏

末継:本日は船越さん、福森さんお二人の対談ということで、よろしくお願いします。船越さんからお話いただけますか。

船越:福森さんのお話で「できないことはしなくていい」というテーマがありましたね。うちの会社も、皆、人間ですから誰でも苦手なことがあって、その苦手なことは必ず他の誰かが得意だったりする。なので苦手なことは、それが得意な誰かにやってもらおう、という風にしています。できないことに関しては「助けてください」とお互いに気持ち良く言える風土を自分たちで作って、サポートし合うなかでお客さんにサービスや商品を提供する。おかげさまで今は三年連続会社として黒字になっています。得意なこと、すごいことが皆あるので、そこを集中してやっていこう、という会社です。

福森:元々は、僕も施設を利用しているみんなに、例えば木の器を丁度良いところまで彫るとか、まっすぐ縫う、とかそうしたことを求めてきました。しかしそれは障がい故にできない方が多かった。そこから徐々に、みんながそれぞれできること、得意なことを探し始めるようになったんです。

末継:船越さんと福森さんは、お二人とも「マッチング」という言葉を使っていらっしゃいますね。そこが共通点なんですよね。その人のできること、得意なことと仕事などを「マッチング」させるということ。船越さんはできることを仕事につなげるということをそのように表現されていますよね。

船越:今まで関わってきた障がい者の方たちを見ていても、できないこと、苦手なことを指摘されて、できるようにしなさいとまずは親から言われて、学校でも言われて、社会に出ても言われて…という方が多いように思います。できないことを常に言われ続けているので、自分でも、自分はできないことが多い、何もかもできないんだ、と思ってしまったり…。でも、私は感覚として、人の能力は全員10だと思っています。私も合計10ですし、どんなに重い障がいのある方も合計10。私の三番目の子どもは障がいがあって生まれてきたんですが、彼も合計10です。私は平均的な、例えばオール2の合計10で、僕の子どもは分野によって0.5だったり、4や5のところがあったりします。その0.5のところをできないことだとずっと指摘され続けてきたんですけど、飛び抜けている4とか5の得意なところ、光るところを一緒に見つけてどんどん磨いていって、それがとんがっている状態になると、その人の魅力になるんですよね。最たるものは偉人と言われる人たちで、モーツァルト、エジソン、アインシュタイン、皆、凸凹の凹の部分も大きいけれど、凸の部分も突出している。そこが仕事につながって、偉人と言われるまでなっている。障がいのある方たちもできることが明確になってそれが光っていれば、必ずそこが活かされる仕事が世の中にあるんです。そこをマッチングさせるのが私たちの仕事です。福森さんも、表現は違うかもしれませんが、そうした支援を実践されているなと思いました。

福森:僕はマッチングと言っても、現在は仕事につなげるよりも、幸せに暮らせる、その人の考えを中心にして生きられることに主眼を置いています。仕事に就くことだけが自立だとは思っていなくて。ただその方の光るところを見つけ出して世の中にマッチングさせるという意味では一緒ですね。お仕事、ビジネスも世の中とのマッチングだし、僕らはその方の作品、クラフトを通して世の中とのマッチングを考えています。それはビジネスとしては成立していませんが、世の中にマッチングしている。彼らの得意なことを仕事に食い込ませてそれをビジネスとして、お給料に還元できるならそれは素晴らしいですよね。船越さんの、できることにしか焦点を当てないというのは大賛成です。

船越:ありがとうございます。私たちもビジネスやお金の先には生きるよろこびがあると思っています。お金やビジネスは最終的な存在意義を得るためのプロセスですね。

福森:障がいの重い方は、売れることに関しても興味がなかったり理解できない方もたくさんいて、そういう方々の表現には驚きを感じることが多いです。巨匠と僕は呼んでるんですけど。

船越:(笑)

福森:そういう方たちの作品を展示したり販売したりすることで何が本人に返ってくるかというと、本人よりもむしろ周囲の人の見る目や接し方が変わるんです。そして作品が認められていくと「この人はすごい人なんだ」という認識が広まっていく。今まで糸の塊にしか見えなかった刺繍やその縫う行為が、自ずと周囲の人の頭のなかのフレームが変わって美しく見えてくる。そうすると人って必然的に、その作者にやさしい言葉をかけるようになるんですよね。上手だね、すごいね、って。本人は意に介していなくても。そうすると人から認められることで、内面からの幸せが生まれてくる。本人はやさしくされるといういちばん大切なことを得られるんですよね。そうして周囲の人からの尊敬が集まる。やはり巨匠なんです(笑)。

 仕事でも、すごいところをすごいと認める環境を作ることは大切ですよね。これだけしかできないのか、ではなくて、ここまでやるか、という世界ですよね。

末継:ありがとうございます。お二人から福祉に携わる支援者にメッセージをいただけますか。若い方も、経験を積み重ねた方もいらっしゃると思います。中にはご家族に障がい者の方がいて、そこから支援者になられた方もいらっしゃると思います。

船越:私はもともとサラリーマンをしていて、45歳で会社を辞めて福祉の仕事がしたいと思い、まずは勉強が必要と考えて社会福祉士の勉強を一年間やりました。そこで学んだことはいろいろあってすごく勉強になりました。ただ、実際に福祉に携わる方々と接するなかで感じることは、学校で学ぶことは大事だし基本であると思いますが、「こうあるべき」というものが多くて、そういう視点で人と関わってしまうことが多々あるんじゃないかと思います。でも例えば障がいのある方にとっては選択肢がたくさんあった方が良いのか、そうではないのか。一般的にはなるべく選択肢を用意するべきだと学びますよね。でも、実際の現場ではそれを求めていない方も当然いる。そこを「こうあるべき」にとらわれすぎずに柔軟にやってほしいなと思います。そちらのほうが絶対に、相手に寄り添える支援ができると思います。

福森:本当ですね。視野を広く持った、普通とは一体何かというのが福祉のテーマだと思います。ですからあまり福祉の知識を意識しすぎないで、人間としてどうあるべきか、そういうことを語れる職員が多くなったらいいなと僕はいつも思っています。自分に焦点を合わせると、不良と言われた時代から生きてきて、ルール違反が得意だったものですから(笑)、ルールについてずっと考えています。ルールが作られると、それが正しいと思うんですけど、法律が改正されるようにルールも変わっていきますよね。今、正しいとされるルールも、すべてが正しいわけじゃないので、大事なのは疑問を持つということでしょうか。もうひとつは、身の丈に合うということ。自分の身の丈に合う行動、これは格好いいです。背伸びをする時期もあるけれど、基本的には自分の知識が行動と同じであるようにしたい。身の丈に合うというのは、身長のことなんですよね。背の高さに合う服を着る。体の大きさに合うものを食べ、自分に似合う家に住み、衣食住が自分サイズであるというのが身の丈に合うということらしくて、障がいがある方は、知識と行動がすごく近い人が多いように見えます。僕らは知識ばかり頭でっかちで、やっていることのほうが細い感じがする。だから身の丈に合うっていうことはすごく格好いいことなんだと思います。さらに言うと、ありのままというのは、身の丈の「ありのまま」に、身の丈の努力を加えなければ、身の丈は進まないんです。だから今の身の丈を知って、自分ができる努力を加えることで、ありのままが変化しながら、結果的にずっとありのままでいられる。今のありのままと来年のありのままは違うと僕は思うんです。ありのままというのは止まっていることを指しているんではないんです。仕事で悩んでも、「まあ自分はこんなものですよ」と自分を受け容れつつ、前に進む努力をしていくができる。浮き沈みがありますから常にはできませんが、そうできる時間を持てれば、すごく仕事が楽しくなるのではないかなと思っています。

船越:はい。もうひとつは、ごきょうだいやご家族に障がいがあってこういう仕事をする方も多いと思いますが、ぜひ自分自身が家族として関わって経験してきた視点を大切にしてほしいと思います。私自身も子どもに障がいがありますので、その視点を今でも大事にしています。そうした気持ちを出してはならない場面もあったりするかもしれません。でも大事なものとして、自分の軸のひとつになることもあると思いますので、そこは打ち消さずに持ち続けて、ある場面ではそういうことも含めて周りの人に「私はこう思います」と堂々と言えるようにしてほしいなと思います。

末継:お二人とも貴重なお話をありがとうございました。

船越:ありがとうございました。

福森:ありがとうございました。

季刊誌100号『人』ページより掲載(季刊誌購読方法はこちらへ

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船越哲朗氏(ふなこし てつろう)
大学卒業後、西部ガス株式会社に入社。営業企画職を担当。
三人目の子どもが知的障がい、発達障がいと診断されたことをきっかけに退職、社会福祉士の専門学校へ。卒業、資格取得後に障がい者の就労支援福祉サービスを行う「ワークオフィス絆結」を創業。創業から3年後に西部ガスからのM&Aを受け西部ガスグループの傘下に。現在は「西部ガス絆結株式会社」として企業からの依頼でデザインや印刷、DM制作業務を行いながら、障がいがある人が得意を生かしてイキイキと働いている。25名の社員のうち、15名が障がい者手帳を持っている。