2020.07.10 UP DATE
人(ヒト)29

高野 裕志 (養蜂家)
福森 伸 (しょうぶ学園統括施設長)

鹿児島で養蜂業を営む高野裕志氏。高校の同級生であった福森からの依頼で、しょうぶ学園でも氏の指導により養蜂を行なっています。
まるで人間社会のような巣の中の様子や農作物の交配についてなど、蜜蜂の魅力をたっぷり教えていただきました。
紙面ではその一部をご紹介します。

左 高野 裕志氏、右 福森伸

福森:高野君は、学園のオムニハウス屋上で行なっている養蜂の指導をお願いしている養蜂家なんだけど、実は高校の同級生なんだよね。
高野:ラグビーをほんの1か月くらい一緒にやったね。
福森:高野君がいろんな職業を経て養蜂を始めて、マルヤガーデンズの屋上でもやっていると聞いて、僕も興味が湧いた。そんな街中でできるなら、吉野(しょうぶ学園の所在地。鹿児島市郊外)でもできるのかな、と思って。それで学園でも教えていただいて、2015 年から養蜂を始めたんだよね。今日は蜂について改めて教えてもらおうと思っています。
高野:もともと、僕の奥さんのお父さんが養蜂一筋の人でね。僕は百貨店の外商とか中古の外車販売、イルミネーションをアメリカから輸入して設計・施工したりと色々な仕事をしてきたんだけど、50歳になる手前に、お父さんから養蜂を引き継ぐという話があって。それまで派手な業界にいたけど、実は一次産業、特に生き物を育てることには以前から興味があったんだよね。でも普通の農業で、土から作るのは向いてない。幸い蜂の動きは、すべて自分の見えるところで行われている。蜜蜂の機嫌がいいのか、悪いのかからすべてが見える。芽が出るまでどうなるか分からないものを作るより自分にとっては取っ掛かりやすかった。それに子どもの頃、蜂に刺されることもあったから、そこまで怖くなかったということもあって。
福森:蜂は正直な生き方だってよく言っているよね。
高野:そう。彼らは本能の赴くままに生きているんだけど、彼らの本能は、どうしてこんなに人間に恵みをもたらしてくれるんだろう、という不思議さがある。ハチミツもそうだし、花粉交配で作物を育てることもそう。地球上の80%以上の園芸作物は、何らかの蜜蜂のグループが媒介することによって存在するものだし、メーテルリンクやアインシュタインも言うように、地球上から蜜蜂がいなくなると人類は作物ができなくなって4年と生きられずに絶滅するだろうと。そのぐらい蜜蜂の世界はすごいなぁという思いはずっと持ち続けているんだよね。


福森:働き蜂はどうしてあんなに女王蜂に忠誠を尽くすのだろうか。
高野:忠誠は尽くすけど…でも働き蜂より重労働しているのは女王蜂なんだよ。働き蜂が女王蜂を取り囲んで、ここに卵を生んで、次はここよ、ほらほら、と女王を誘導しているの。女王1匹に対して群れの約95%の働き蜂はメス蜂で残り4〜5%はオス蜂の女性社会。この雄蜂は交尾するときだけ動いて、あとは働かないで、ずんぐり太って、働き蜂にやがて追い出される(笑)。 女王蜂も歳を経て卵の産みが鈍くなると働き蜂達が新しい女王の誕生準備をし、それを察知した古い女王は数千匹の働き蜂と共に巣を明け渡し外に飛び出します。これが分蜂という現象です。
福森:そうなんだ!
高野:そう考えると、雄蜂より女王蜂より働き蜂が影のトップみたいでしょ。
福森:女王蜂は卵を生んで、働き蜂がハチミツを作るんだよね。
高野:働き蜂は外に出て、花の蜜を吸引して巣に持ち帰るんだけど、巣の入り口で、内勤の働き蜂に口移しで渡す。内勤の蜂がそれを巣に溜めていく。
福森:内勤の人たちがいるんだね(笑)。
高野:そう。内勤は若いのばっかり。蜂の寿命は40
日ほどなんだけど、産まれてきて最初の2週間は産まれた巣とか新しく卵を産む巣を掃除したり、幼虫に餌をあげたり、家政婦さんみたいな仕事をする。その次にやっと巣の入り口で門番をしつつ巣の外の世界を少し垣間見見て、最後の2週間ぐらいではじめて外に蜜を取りに行く。よく蜜蜂が一生で集める蜜の量はティーンスプーン1杯と言うけれど、わずか2週間ぐらいの間の出来事なんだよね。ベテランはそうやって外に行くから、農薬の影響で死んでしまったりすると巣の中が新人ばかりになって、そうすると巣の中が混乱するよね。ホウ・レン・ソウがうまくいかないんだろうね。人間の縮図を見ているみたいでしょ。
福森:はぁー、本当だね。
高野:外から集めてきた蜜は初めは水分が多いので、巣の中の働き蜂たちが夜な夜な羽で扇ぐ。蜜蜂は自分の体温を40度近くまで上げることができるので、その状態でばーっと仰いで、水分を飛ばして、濃度が80%を超えたら、冬に食べるために蓋をする。
福森:冬に蜂が食べようとしていたのに我々が食べて…。
高野:そうなの。そう思いながら採ってしまうんだけど。それにハチミツは蜜蜂が一度消化器官を通していることで、ブドウ糖と果糖に分解されている。だから人間が食べたときに、インシュリンを出して分解する必要がなくて、体に負担をかけることなく、すぐエネルギーに変わる。本当に、蜂には申し訳ない気持ちとそれを上回る感謝の気持ちが強くなるよね。すごい本能の持ち主だな、と。
福森:高野君がそこまで言う蜂の魅力がやっと分かったかも。なるほどね。
高野:心が洗われるよ。この仕事をしていると。蜜蜂の営みを見ているとね。
福森:良かったね!
高野:仕事中に刺されても、痛いというより「あぁ、刺すようなことをしてしまったか」と思う。
福森:悟ってきたね、還暦ともなるとね。
高野:悟りの境地になってくるよね。


高野:仕事でいちばん喜びを感じるのは、そうして採ったハチミツを販売したときに、コメントで美味しいと言われたり、リピート購入してくださったり、ストレートにそういうところですね。蜂が一生懸命集めてきたものを、僕らはできるだけ、お客様が使いやすい容器に詰めたり、魅力が伝わるように仕上げていく。その過程では、今までやってきた仕事がとても役に立っているんだよ。ハチミツは日本では嗜好品のような扱いなので、百貨店の外商や車の販売で良いものをたくさん扱って、高級なものを買う人たちに接した経験が生きている。
福森:本物が分かる人たちだね。
高野:そうそう、値段とか情報に左右されない人たち。
福森:本物を知ることを追求していくと、本当はパッケージなんかは関係ないはずなんだけど、例えば、学園の利用者が意図せず作ったものが美術館に出展されたらそれがアートとしてパッケージされる。その結果、価値が人に知られることにはなるんだけど、もとは利用者が刺繍をした後の残り糸の塊だったりして、パッケージされていないとこれを見て美しいと思う人は少ないかも知れない。それがちょっと悲しいことではある。でも、パッケージングしないと世に広まらないというジレンマがあるんだよね。
高野:誰かがそういう仕掛け作りをしないと、誰の目にも触れないかも知れないからいいことだと思うけどね。
福森:ほどよくパッケージングされているものの価値を正しく理解して、販売するにしても謙虚に扱うサイクルにいたいね。それにしても君は高校のときからあんま変わらないけど、蜂の話になると本当に話が止まらないね(笑)。
高野:言いたいこと、いっぱいあるんだよね。いろいろな仕事をしたけど、これが自分の最後の仕事やでね。いい仕事だよ。若い人にも養蜂家になってもらいたい。養蜂家の集まりでは、若い人が少ないこともあって60歳の自分はまだ青年部。一番上は90代の先輩が現役で軽トラに乗ってやっている。70代の先輩はバリバリ最前線。そう考えるとまだやらないといけないことはいっぱいあるよね。
福森:そうだよね。僕もそう。
高野:例えば、蜜蜂の交配でできる農作物は、日本養蜂家協会調べで年間8千億円分くらいある。だから農業の観点からももっと蜜蜂を大事にしてもらえるよう働きかけていなかいといけないの。
福森:そのために協会とかで頑張っているんだね。
高野:そう。それに例えば、街路樹や公園の樹木が少しでも蜜源植物になれば、蜜蜂が増える。東京ではトチノキが街路樹になっていることもあって、蜜蜂が生きやすいし、長くハチミツが採れる。鹿児島もそうしていきたいと思うんだよね。やりたいことがあるのはしあわせなことだと思う。かといって若い頃のようにあんまり熱くなってもいかんと思うんだけど…。
福森:充分熱すぎるから(笑)。今日はありがとう。おかげで今年も学園の蜂蜜ができました。これからもよろしくお願いします。

*養蜂についてさらに詳しく知りたい方へ、高野氏におすすめの参考文献をご紹介いただきました。

『養蜂大全』
松本文男 著
セイヨウミツバチの群の育成から採蜜、女王作り、給餌、冬越しまで飼育のすべてがわかる! ニホンミツバチ&蜜源植物も網羅

2019年04月
誠文堂新光社刊

季刊誌97号『人』ページより掲載(季刊誌購読方法はこちらへ

NEWS 一覧へ戻る

高野裕志(たかの ひろし)
1959年鹿児島生まれ。養蜂家。百貨店の外商、輸入車販売、輸入建材・電飾の輸入販売等の仕事を経て、家業の養蜂の道へ。現在、高野養蜂場代表。鹿児島県養蜂協会副会長。鹿児島市の百貨店「マルヤガーデンズ」「山形屋」や「城山ホテル鹿児島」でも養蜂を行なっている。
高野養蜂場web site:takano-honey.com